自分はどんなに傷ついてもいい・・。

命に代えても貴方を守るわ。

あの時、そう心に決めたのだもの・・・。

そうそれは、7年前からの自分の誓い。

 

 

第八章  〜 月明かり 〜

 

 

「大丈夫?」

「ええ・・たいした事ないわ。」

「でも・・・あちこち怪我してるし。痛いだろ?」

「こんなの、いつもの事だから平気。」

「でも・・・・」

「ああもう!・・・・・しつこい。」

 

宿屋の一室から聞こえてくるこのやりとりは、かれこれ20分位続いている。

レオナは兵士との戦いの時にだいぶ怪我をしたようで

リョウが手当てすると言うのだが彼女は大丈夫の一点張りだった。

意地っ張りだとリョウは思う。

こんなに怪我して痛くないはずがないのに・・。

彼女の白い肌は、所々擦り傷や切り傷でかなり傷ついていた

。彼女は時々その傷をさすっている。

ほら、やっぱり痛いんだろ?

「レオナ、ちゃんと手当てしないと・・・。」

「うるさいってば。大丈夫よ、このくらい。」

「でも、バイキン入るだろ? 化膿するよ。」

そう言ってリョウは消毒液と包帯を彼女の傷口に近づける。

レオナはそれをかわすと観念したように言った。

「〜〜〜〜・・・・・分かったから。自分でするから。」

 

彼女は大きなため息をついて救急箱に手を伸ばす。

のらりくらりとした様子で傷口に消毒液を付け始めた。

それを見てようやくリョウは息を吐く。

意地っ張りもたいがいにして欲しいものだ。

自分の状況は把握して欲しい・・。

リョウは横にあるベッドに視線を移す。

ベッドには金色の羽の鳥が横たわっていた。

彼女は宿屋に着くとすぐに鳥の手当てを始めた。

自分の傷はそっちのけで・・・だ。

レオナ本人も腕からボタボタ血が流れているのに・・だ。

リョウが、自分が鳥の手当てをするから・・と言うと、

自分ですると言って凄い目で彼を睨みつけるのだ。

せめて自分の手当てが終わってからやってもらいたい。

そう出かかっていた言葉をやっとの思いで飲み込んだ。

こんな事言ったら彼女になんて言われるか分かったもんじゃない。

 

リョウはその鳥を横目で見た。

金色の羽はとても美しい。

月明かりに反射してキラキラと輝いていた。

こんなに美しい鳥は見たことはない。

どこの鳥だろうか。

そこら辺にいるものではない。

というか、こんな鳥が存在するのかと思ったほどだ・・・。

リョウは暫くその鳥の美しさに魅入った。

なぜレオナはここまで、この鳥に執着するのか・・彼は疑問に思った。

でも、彼女がこんなにまでボロボロになってまで守り通そうとした鳥だ・・・。

きっと何か思い入れがあるのだろう・・。

例えば家族に貰った鳥だとか、何か大切な思い出なのだとか。

少女に視線を戻すと、やっと傷の手当が終わったのだろう

包帯だらけの自分の腕や足をみて長いため息をついていた。

深く聞くのはよそう・・そう思った。

 

「リョウ・・。」

ふいにレオナは彼の名前を呼んだ。

「何?レオナ。」

「ありがとう・・・・クロード助けてくれて。」

彼が兵士に向かって短剣を投げたことを言っているのだろう。

なんとか彼女を助けようと思って出た行動だった。

実際彼の行動で危機が回避されたといってもいい。

「いや、いいんだよ。でもよかった・・無事で。」

そう言ってリョウは笑う。

それを見た少女は口元だけで軽く、本当に軽く微笑んだ。

 

「これからどうするの?」

一息ついて落ち着いた時、リョウはレオナに尋ねる。

レオナもすっかり落ち着いたようだ。

今までのピリピリした空気が弱まっている。

「クロードも戻ったことだし・・・自分の家に帰ろうと思うわ・・。」

「うん、そうだね・・・。レオナの目的は果たされたんだし。」

レオナの目的は、クロードを救い出すこと。

「リョウは・・?」

「僕は・・・ある人にここへ来るように言われたんだ。

ここに来れば次にするべき事が分かるって言われて・・。でも、何にも分からないや。」

 

そう言ってリョウはハハハと笑った。

本当に、これからどうするのだろうか・・。

早くも行き止まりの感が否めない。

しかし、そんな不安を彼女に知られたくなくてリョウは明るく笑った。

レオナはそんなリョウをじっと見つめている。

「運命の歯車・・・。」

レオナは目を伏せてぽつりと言った。

「え?」

「無に帰す存在、我を忘れ外の世界に飛び出すとき、

無に向かう時を止める歯車が集まり、その存在をあるべき所に帰すであろう・・・。」

リョウはその言葉をじっと聞く。

・・・・何かの言い伝えだろうか?

無に帰す存在・・・。

彼の中に老婆の言葉が蘇る。

 

『我々はその存在をZEROと呼んでいる。無に帰す・・・という意味でね。』

 

「レオナ!!! 今のって! 今のって何!? 君は知ってるの?ZEROの事!」

「・・・ZERO」

どうして知っている?

 君は・・・君は一体何者なんだ?

どうしてZEROの事を知ってる? 

君をさっき襲った奴らと関係あるのか!?

レオナはリョウの質問に何も答えなかった。

「知っている」とも「知らない」とも答えなかったのだ。

少女は窓辺に視線を移す。月が高く上っていた。

「・・もう行かなきゃ。 」

「レオナ!! どうして!? 教えてよ! 君は一体・・・。

僕はこれからどうすれば・・。もしかして君も、君も僕と同じなの? 

ZEROを止めるために・・選ばれたの!? 歯車として・・。」

レオナは窓を開ける。風が彼女の髪を優しく揺らす・・・。

月明かりが彼女を照らす。

月に照らされた少女の美しさにリョウはそれ以上言葉を発することが出来なかった。

「歯車の一人、リョウ・コルトット・・。 あなたが・・。」

口から漏れた言葉。

その言葉を彼女は苦々しそうに呟いた。

「・・・レオナ?」

「あら、ちょうど来たみたいよ? 貴方に指示を出した人が・・。」

レオナはそう言って彼の後ろを指差す。

リョウが振り向くと、あの老婆がにこにことして立っていた・・・。

「お、おばぁさん・・?」

「すまないね・・リョウ。少し予定が狂ってしまったよ。」

そう言って老婆はレオナを見た。

彼女も又、老婆を見る。

 

2人の間に沈黙が流れた。

 

「干渉の域を超えているんじゃないの?」

レオナが冷たく言い放つ。

「それは、承知しております・・レオナ様。

しかし、リョウから全てが始まるのです。

彼にはこれから他の歯車を探してもらわなければいけないのです・・。

仲介人をここに設置していたのですが、
ZEROに先手を打たれ・・・」

そういって老婆は彼女に頭を下げた。

リョウは黙って2人を見た。

この
2人は知り合いだったのか・・?

「リョウ・・。」

レオナが彼の名を呼ぶ。

「何?レオナ・・・。」

「私、もう行くわ・・。」

「レオナ! 君は一体・・・」

「またね。」

そう言って彼女は窓から飛び降りた。

ここは2階!!そう思ったが彼女は能力を使って風を生み出してゆっくり下に降りる。

それを見送った後、リョウは老婆に向き直った。

「おばぁさん・・・。彼女は・・レオナはZEROに関係あるんですか?彼女は何者なんです?」

いつもにこやかな老婆の顔はとても悲しそうに寄せられた。

「レオナ様は・・・またね ・・・とおっしゃった。

いずれまた・・会えるのだろう・・。しかし、私は・・。」

それっきり何も言わなかった・・・。何も・・・。

だから、僕も何も言えなくて・・。

2人の関係も聞くことが出来なくて・・・。

ただ、おばぁさんの表情がとても悲しそうだったから、今は何も言わないでおこうと決めた。

 

そして僕は・・この後僕が何をすればいいのか聞かされることになる・・。

 

 

 

 

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